「地・・上?」
「そう・・『陽』が住む世界」 動きを止め、EGの前を歩いていたラメスはそのまま続ける。 「二週間前の事故・・この地下で最高位の科学者・セアムでさえも治せなかった・・ だけどセアムは言ったの『ここ、地下では無理だ』って・・」 ラメスがこれから言うであろう言葉を汲み取り、かわりにEGが言葉を紡ぐ。 「まさか・・そのため・・・?」 数秒間が空きながらも、ラメスは肯定した。 「行くよ。・・行かなきゃどうにもならない」 ラメスのその言葉には、揺るぎない意志があった。 それをずっと近くで見てきたEGには、よりいっそうわかった。 ・・けれど、だからと言って簡単に賛成などできない。 「でもラメス・・地上は地下を嫌ってるよ?」 「うん、でもね・・」 しかし相手は相手で、簡単に引くことは決してしない。 EGは気がつくと、叫ぶように言葉を放っていた。 「だめだよ!もしかしたら戻って来れないかもなんだよ!?」 それに対して返事を返さない相手に、さらに言葉を続ける。 「確かにあの事故でたくさん失った!・・けど、けどっ今でも十分じゃん!不満じゃないよ!?」 ―私は今のままでも何も悲しくなんかないのに。 けれどラメスは、それ以上言葉を続けさせなかった。 「それでも・・」 いつの間にかこちらに向き直っていた相手は、前を見据え、それでも私はっ・・!と叫んだ。 「・・私は取り戻したい・・あの事故で失ったモノを・・そのためにはどんなことだってする」 言葉の奥に固い決意を秘めながら、最後に笑って言った。 「心配してくれてありがとうEG。でもやらなきゃ」 再び歩き始めた相手を見ながら、EGは悩んだ。 取り戻したいものが自分の何かで出来るのなら、相手を行かせてあげたい・・―。 事故に遭ってから、相手は周りに責められ追われ、散々苦しめられてきた。 地上に行くことは決して勧められないが、それで相手の心が少しでも休まるのなら・・。 「・・・ラメス」 「ん?」 おずおずと、なるべく目を逸らすようにして話した。 「その・・さっきあたしをいじってたのって地上に行く為に必要なんだよね? ・・いいよやっても」 そう言った瞬間、ラメスはみるみる笑顔に変わり、喜んだ。 ◆ 「OPR(オフィシャル・ペスト・リーター)?何ソレ」 ラメスの発した単語に聞き覚えがなく、思わず首を傾げる。 「地上と地下を行き来できる人のこと。 管所でOPRと認められた人は以後、自由に行き来できるみたい。ただー・・・」 「ただ?」 言葉を濁らせる相手を不審に思いながら先を促す。 「管所に行くまでのお金が無いんだよ〜〜〜っ」 「・・・。」 目の前で崩れている相手を見やりながら、考えたくはない結論に至り、 顔を引きつらせてEGは言う。 「・・もしかしてあたしをいじったのって・・・・」 「EGの中にある宝石を取るため」 案の定返ってきたその言葉に、EGは先程の自分の行為を深く後悔した。 普通、EGの体内には一人一個宝石が埋められている。 何の為にそんなことが施されているのかは未だ分かっていないが、 取っても特に支障が無い上、割と値が張るため、多くの人は売っている。 だからラメスがそうすることは何も咎められる事ではないのだが・・・。 それも時と場合によるだろう。 今のEGにとってそれは、丸半日分の無駄を意味していた。 だっ騙された・・そんなもんのためにあたし照れてたのかい・・・。 そんなEGの胸中を知ってか知らずか、ラメスは上機嫌で歩いていく。 「じゃ、早速売りに行こー!」 ゴーゴーと手を上げながら進んでいく主人に呆れながら、 はぁ、とEGは軽く溜め息をついた。
お金も入り、清々しい顔をしている相手を 「待ってラメス」 と制止した。相手の行動に疑問を思ったからである。 「地上へ行くのにあたし置いてくの?セアムさんにも何も言ってかないわけ?」 「・・・・・」 痛い所を突かれたのか相手は苦い顔をしながら渋々答える。 「だってEGは低35℃の中でしか生きられないんだよ?地上がどんな所かわかんないじゃん」 もっともな事を言われ「うっ」とEGは口をつぐむ。 「だからとりあえず地上へ行ってもう一回戻ってくるから!」 ヘラヘラ顔の相手がイマイチ信用できず 「・・・本当に?」 と念を押す。そうすると相手も 「本当だよ〜」 と繰り返すのでさらに聞き返す。 「絶対・・?」 「絶対!!」 ここまできたら、いくら言っても同じことだろうと、EGは繰り返すのを止めた。 それに安心したのか、ラメスはそれじゃっ!と言いながら 「あっセアムには秘密だからね!!」 と最後に付け加えた。 さすがにEGもそれには納得できず、何で!?と聞き返す。 すると相手は少し伏し目がちに言葉を紡いだ。 「・・小さい頃から捨てられていたあたしを育ててくれたし・・心配かけたくないの」 親代わりのセアム・・・ー 脳裏に相手の顔を思い浮かべながら先程までの光景を重ねる。 地上へ行くって知ったら、きっと怒る・・・ しばらく沈黙したラメスにそれ以上何も言うことが思いつかず、 EGは、ま、いいやと言って手を頬の横で振った。 「いってらっしゃい、ラメス」 それに答えるように、ラメスもまた、 「いってきます!」 と笑顔で言い、背を向けて歩き出した。 |