「地・・上?」

「そう・・『陽』が住む世界」

動きを止め、EGの前を歩いていたラメスはそのまま続ける。

「二週間前の事故・・この地下で最高位の科学者・セアムでさえも治せなかった・・

だけどセアムは言ったの『ここ、地下では無理だ』って・・」

ラメスがこれから言うであろう言葉を汲み取り、かわりにEGが言葉を紡ぐ。

「まさか・・そのため・・・?」

数秒間が空きながらも、ラメスは肯定した。

「行くよ。・・行かなきゃどうにもならない」

ラメスのその言葉には、揺るぎない意志があった。

それをずっと近くで見てきたEGには、よりいっそうわかった。

・・けれど、だからと言って簡単に賛成などできない。

「でもラメス・・地上は地下を嫌ってるよ?」

「うん、でもね・・」

しかし相手は相手で、簡単に引くことは決してしない。

EGは気がつくと、叫ぶように言葉を放っていた。

「だめだよ!もしかしたら戻って来れないかもなんだよ!?」

それに対して返事を返さない相手に、さらに言葉を続ける。

「確かにあの事故でたくさん失った!・・けど、けどっ今でも十分じゃん!不満じゃないよ!?」

―私は今のままでも何も悲しくなんかないのに。

けれどラメスは、それ以上言葉を続けさせなかった。

「それでも・・」

いつの間にかこちらに向き直っていた相手は、前を見据え、それでも私はっ・・!と叫んだ。

「・・私は取り戻したい・・あの事故で失ったモノを・・そのためにはどんなことだってする」

言葉の奥に固い決意を秘めながら、最後に笑って言った。

「心配してくれてありがとうEG。でもやらなきゃ」

再び歩き始めた相手を見ながら、EGは悩んだ。

取り戻したいものが自分の何かで出来るのなら、相手を行かせてあげたい・・―。

事故に遭ってから、相手は周りに責められ追われ、散々苦しめられてきた。

地上に行くことは決して勧められないが、それで相手の心が少しでも休まるのなら・・。

「・・・ラメス」

「ん?」

おずおずと、なるべく目を逸らすようにして話した。

「その・・さっきあたしをいじってたのって地上に行く為に必要なんだよね?

・・いいよやっても」

そう言った瞬間、ラメスはみるみる笑顔に変わり、喜んだ。

「OPR(オフィシャル・ペスト・リーター)?何ソレ」

ラメスの発した単語に聞き覚えがなく、思わず首を傾げる。

「地上と地下を行き来できる人のこと。

管所でOPRと認められた人は以後、自由に行き来できるみたい。ただー・・・」

「ただ?」

言葉を濁らせる相手を不審に思いながら先を促す。

「管所に行くまでのお金が無いんだよ〜〜〜っ」

「・・・。」

目の前で崩れている相手を見やりながら、考えたくはない結論に至り、

顔を引きつらせてEGは言う。

「・・もしかしてあたしをいじったのって・・・・」

「EGの中にある宝石を取るため」

案の定返ってきたその言葉に、EGは先程の自分の行為を深く後悔した。

普通、EGの体内には一人一個宝石が埋められている。

何の為にそんなことが施されているのかは未だ分かっていないが、

取っても特に支障が無い上、割と値が張るため、多くの人は売っている。

だからラメスがそうすることは何も咎められる事ではないのだが・・・。

それも時と場合によるだろう。

今のEGにとってそれは、丸半日分の無駄を意味していた。

だっ騙された・・そんなもんのためにあたし照れてたのかい・・・。

そんなEGの胸中を知ってか知らずか、ラメスは上機嫌で歩いていく。

「じゃ、早速売りに行こー!」

ゴーゴーと手を上げながら進んでいく主人に呆れながら、

はぁ、とEGは軽く溜め息をついた。




「それじゃっ!管所に行ってくるね」

お金も入り、清々しい顔をしている相手を

「待ってラメス」

と制止した。相手の行動に疑問を思ったからである。

「地上へ行くのにあたし置いてくの?セアムさんにも何も言ってかないわけ?」

「・・・・・」

痛い所を突かれたのか相手は苦い顔をしながら渋々答える。

「だってEGは低35℃の中でしか生きられないんだよ?地上がどんな所かわかんないじゃん」

もっともな事を言われ「うっ」とEGは口をつぐむ。

「だからとりあえず地上へ行ってもう一回戻ってくるから!」

ヘラヘラ顔の相手がイマイチ信用できず

「・・・本当に?」

と念を押す。そうすると相手も

「本当だよ〜」

と繰り返すのでさらに聞き返す。

「絶対・・?」

「絶対!!」

ここまできたら、いくら言っても同じことだろうと、EGは繰り返すのを止めた。

それに安心したのか、ラメスはそれじゃっ!と言いながら

「あっセアムには秘密だからね!!」

と最後に付け加えた。

さすがにEGもそれには納得できず、何で!?と聞き返す。

すると相手は少し伏し目がちに言葉を紡いだ。

「・・小さい頃から捨てられていたあたしを育ててくれたし・・心配かけたくないの」

親代わりのセアム・・・ー

脳裏に相手の顔を思い浮かべながら先程までの光景を重ねる。

地上へ行くって知ったら、きっと怒る・・・

しばらく沈黙したラメスにそれ以上何も言うことが思いつかず、

EGは、ま、いいやと言って手を頬の横で振った。

「いってらっしゃい、ラメス」

それに答えるように、ラメスもまた、

「いってきます!」

と笑顔で言い、背を向けて歩き出した。

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