管所までの道程は決して遠くはないが、

行くまでに通行料だの管理費だのを無駄に取られるためお金ばかりがかかる。

数十分歩いて着いたそこは、家が密集している場所よりも数倍明るく、

国の管轄であることを強調しているような独特の雰囲気を保っていた。

とは言え、技術力を全くと言っていいほど持たない地下世界では

建物の造り自体が布や木で出来ているものがほとんどで、

地上のようにコンクリートのドアがついているのは各街の入り口ぐらいである。

当然、この管所も外と中を隔てるのは地面まで垂れかかった真っ白な布一枚だけだった。

「すいませーん」

ここまでの浪費を思いながら声をかけると、奥から声が聞こえる。

中程まで進むと、広いテーブルに首から自分の性能を表したプレートを提げた受付がいた。

「はーい 何の御用ですか?」

明るく笑う相手にわっかわいいEG・・と思いながらも用件を伝える。

「あっあのですね!地上に行きたいんですけど・・・」

相手はニコニコしながら

「すみません。OPRでないと行けませんが・・」

と丁重に断った。

「OPRになります!」

確かOPRになるための条件はそんな厳しくなかったはず・・

と記憶を探りながら言うと、相手は少し顔をしかめた。

「・・なるといってなれるようなものではございません。自身が何系かご存知ですか?」

当然のように問われ、なっ何ですかソレ・・と考えるよりも先に口走っていた。

するとEGは知らないんですか・・とイスから立ち上がり、こちらに手を向けた。

わけが分からないまま立ち尽くしていると、

少し失礼します、と言って何か呪文のようなものを唱えた。

ー・・瞬間、EGの手から光がスゥッと出てきた。

「!?」

なっ何!?てってっ手から光が出た!?EGにそんなことできたっけ・・・!?

こちらが戸惑っている間にEGはさっさとテーブルに戻り、何やら紙に書き始めた。

「あなたは水系ですね。風の保護を受けているため清らかな水系です」

「はっ・・は?・・・何ですって?」

相手の言ってることがさっぱりだ・・。相手はそのまま説明を続けた。

「〜系とはその人が使う技の種類です。【水】は主に・・・

あなた様は冷たい所に耐えられるでしょう?」

自分は元より涼しい場所を好むし、そこにいると自然と落ち着いた。

「えっ・・ハイ」

だから何の気無しに答えると、そういうことです、と完結されてしまった。

いやだから、それがわからないんだって!と胸中でぼやきながら、

「どっどういうことです?」

よくわかりません・・と付け足し、相手に説明を求めた。

「つまり・・生まれつきその人の“特長”です。色々ありましょう?」

相手は続ける。

「それを自然の理・・力に当てはめて種類分けしたのが“系”なんです」

ようは、それぞれの生まれつきの才を元ある自然の種類に分けたということだろうか。

それが私には【水】という種類だったと・・。

「今のあなたは冷たい物や場所に耐えることしか出来ませんが、

腕を磨けばもっとたくさんの技が身につきますよ」

そして特にあなたは清らかな水系だから早くできます、と言った。

途端、スッと先程何かを書いていた紙をこちらに差し出し、

「ようこそOPRのメンバーへ」

と静かに告げた。

ついさっき断られたばかりで、少々戸惑っていると、相手はそれを察してくれたらしく、

微笑みながら説明をしてくれた。

「OPRは【風・水・火・地・光・闇・音・時・林・生】の系の人々を認めています」

ようやく納得できたと同時、OPRになれたのだと嬉しくなった。

これで、事故について調べられるのだ・・と。





「この紙に『名前』、『性別』、『系』を書いて奥の扉へ行ってください。

そこで紙を渡せば地上へ行けます」

ペンを渡しながらEGは最後に一言言った。

「・・【OPR】頑張ってください」

笑顔と共に発せられたそれは、何か別の意味を持っている気がしてならなかった。

・・・頑張る・・・?

扉を開け、中へ入ってからも先程の声が頭の中でこだまする。

ー【OPR】頑張ってください

私は確かに地上へ行ってすべきことがある。

けれど・・OPRで頑張ることなんて・・あるの?

地上は・・陽は何かあるの?

フッと前を見ると、着物に身を包んだ女の人が立っていた。

向こうもこちらに気がついたのか、視線を向ける。

「OPRに入った方ですね・・紙をどうぞ」

そう言うと、相手は手を差し出してきた。

「ー・・・」

未だ頭の中で反響する言葉に戸惑い、紙を持った右手を出すことが出来ない。

するとそれを察した相手の赤色の爪は向きを変えた。

白い着物に両耳にイヤリング、髪をピンクの紐で一つに括り、

手の爪を赤で装飾するは幻鏡と呼ばれる地下中心都市の一つである都市の風習である。

正直目の前の相手にも驚いた。

幻鏡都市は他との交流を避けることで有名なのに。

しばらく沈黙していたこちらに相手はゆっくりと言葉を紡いだ。

「まだ・・OPRになること、迷っているのですね」

「!」

「時間制限はありませんのでごゆっくりお考えください」

そう言って優しく笑う相手に心持ち気が楽になった気がした。

「・・あっあの・・」

そう思った時には口が思いを伝えていた。

「はい?」

こちらを安心させるようなゆっくりなテンポに、聞くのをためらうことは無かった。

「OPRってその・・何かしなくちゃいけないこととかってあるんですか?」

それを聞いた瞬間、相手は目を見開いていた。

「あはは・・そんなことありませんよ。

OPRは地下の人がなれる地上・地下間の自由な旅人のようなものですから」

優しくそう言われ、そうですよね・・と先程までの自分を後悔した。

造所で調べた時も、しっかりそこには書かれていたというのに。

「お迷いになっていたのは・・・、それ・・ですか?」

「ハッハイ・・」

真顔で尋ねられると、いかに自分が間抜けなことを聞いたか鮮明になり

恥ずかしい・・っと胸中で呟いた。

「受付のEGに『頑張ってください』って言われて

何かしなくちゃいけないことがあるのか気になっちゃって・・」

小心者ですねっ私・・と苦笑交じりに言った。

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